親のスマホがロック解除できないまま相続が進むケース
親が亡くなった後、手元に残されたスマートフォン。電源を入れると、パスコードの入力画面が表示される。4桁か6桁か、あるいは指紋や顔認証か。いずれにしても、本人以外には開けない仕組みになっている。
スマホの中には、連絡先、メール、写真、アプリ、そしてさまざまなサービスへのログイン情報が入っている。相続の手続きを進める上で必要な情報も、そこに含まれているかもしれない。しかし、ロックが解除できなければ、中を確認することはできない。
そのまま相続の手続きが進んでいく。スマホは開かれないまま、どこかに置かれたままになる。
スマホに情報が集約されている現実
かつては、重要な情報は紙で保管されていた。通帳、契約書、保険証券、住所録。それらは引き出しや金庫に入っていて、物理的に探せば見つかるものだった。
現在、多くの情報はスマートフォンの中に集約されている。銀行のアプリ、証券会社のアプリ、保険会社からのメール、各種サービスの契約確認メール。紙の書類が届かない契約も増えている。連絡先も、スマホの中にしか存在しないことがある。
親がどのような契約をしていたのか、どのサービスを利用していたのか。その全体像を把握するための手がかりが、ロックされたスマホの中に閉じ込められている。
パスコードを知らないという前提
家族であっても、親のスマホのパスコードを知っているとは限らない。むしろ、知らないことの方が一般的かもしれない。
親の側からすれば、パスコードは自分のプライバシーを守るためのものである。家族に教える理由がなければ、教えないまま過ごすことになる。子の側からすれば、親のスマホを勝手に見ることは憚られる。パスコードを聞くこと自体が、何か後ろめたいことのように感じられることもある。
その結果、親が亡くなったとき、パスコードを知っている人が誰もいないという状況が生まれる。生前に聞いておけばよかった、と後から思っても、その機会は失われている。
ロック解除を試みる段階で起きること
親の誕生日、電話番号の下4桁、よく使っていた数字の組み合わせ。思いつく限りのパスコードを試してみる。しかし、何度か間違えると、スマホはロックアウトされる。一定時間入力ができなくなり、さらに間違え続けると、最終的にはデータが消去される設定になっていることもある。
焦って試すほど状況は悪化する。かといって、何もしなければ中を見ることはできない。どこまで試すべきか、どこで諦めるべきか。その判断基準は誰にもわからない。
指紋認証や顔認証が設定されている場合、本人がいなければ解除は不可能である。技術的なセキュリティが、家族にとっては壁になる。
専門業者という選択肢の現実
スマホのロック解除を請け負う専門業者が存在する。ただし、その利用にはいくつかの現実的な問題がある。
まず、費用が高額になることがある。機種や状況によって異なるが、数万円から十数万円、あるいはそれ以上かかる場合もある。解除できる保証がない場合もあり、成功報酬ではなく作業費として請求されることもある。
また、業者の信頼性を判断することが難しい。個人情報が詰まったスマホを預けることになるため、セキュリティ上のリスクがある。どの業者が信頼できるのか、調べる時間も判断材料も限られている。
業者に依頼するかどうかの判断は、家族の間で意見が分かれることもある。費用対効果が見えにくいため、「そこまでする必要があるのか」という疑問が出やすい。
キャリアやメーカーに問い合わせても進まない理由
携帯電話会社やスマートフォンのメーカーに問い合わせれば、何とかなるのではないか。そう考えて連絡を取る人は少なくない。
しかし、多くの場合、キャリアやメーカーはロック解除に対応していない。パスコードは端末内に保存されており、外部からアクセスする手段が用意されていない。これはセキュリティ上の設計であり、正当な理由があっても例外は認められにくい。
相続人であることを証明する書類を提出しても、ロック解除ではなく、契約の名義変更や解約といった手続きに限定されることが多い。スマホの中身にアクセスするための正規のルートは、基本的に存在しないと考えた方が現実に近い。
スマホを開けないことで止まる手続き
スマホが開けないことで、いくつかの手続きが滞ることがある。
たとえば、ネット銀行やネット証券の口座。紙の通帳がなければ、口座の存在自体を把握できないことがある。メールアドレスがわかっていても、パスワードがわからなければログインできない。二段階認証が設定されていれば、スマホに届く認証コードなしにはアクセスできない。
サブスクリプション契約の解約も同様である。どのサービスに登録しているのか、スマホの中を見なければわからないことがある。クレジットカードの明細から推測することはできても、すべてを把握することは難しい。
手続きが止まっている間も、請求は続く。口座は凍結されないまま残る。全体像が見えないまま、部分的に対応を進めるしかない状況が生まれる。
開けないまま進める判断
ある時点で、「スマホは開けないまま進める」という判断がなされることがある。
費用をかけて業者に依頼しても開くとは限らない。仮に開いたとしても、そこから得られる情報がどれほど有用かはわからない。他の手段で把握できる範囲で手続きを進め、わからないものはわからないまま処理する。そうした判断が、現実的な選択として浮上する。
その判断に全員が納得しているとは限らない。「本当にそれでいいのか」という迷いを抱えたまま、話が進んでいくこともある。正解がない中で、どこかで区切りをつける必要がある。
スマホが象徴するもの
ロック解除できないスマホは、相続の場面で独特の存在感を持つ。
それは単なる電子機器ではなく、故人の日常の断片が詰まった箱のようなものである。写真、メッセージのやり取り、検索履歴、ダウンロードした音楽。それらに触れたいという気持ちと、触れることへの躊躇が同時に存在することもある。
開けないことで失われる情報がある一方で、開けないことで守られるプライバシーもある。本人が生きていれば見せなかったであろうものが、そこには含まれているかもしれない。
スマホを開けるかどうかという問いは、単なる技術的な問題ではなく、故人との関係や、残された者の感情が絡み合う場面でもある。
結び
スマートフォンは、現代の生活において情報の中心になっている。その中心が、本人以外には開けない形で残される。
ロックを解除する手段は限られており、正規のルートはほとんど存在しない。開けないまま相続が進み、把握できない情報がそのまま残る。そうした状況が、特別ではなく、日常的に起きている。
スマホは電源が切れるまで、あるいはバッテリーが劣化するまで、どこかに置かれたまま時間が過ぎていく。

