サブスク契約が残ったまま、相続後も請求が続くケース
親が亡くなり、葬儀を終え、銀行口座の手続きも一段落した頃、クレジットカードの明細に見覚えのない引き落としが並んでいることに気づく。月額数百円のものもあれば、数千円のものもある。名義人はすでにいない。それでも請求は届き続けている。
こうした状況は、相続の手続きがひととおり終わったと思った後に表面化することが少なくない。本人がどのサービスを契約していたのか、家族は把握していない。契約していたこと自体を知らないまま、毎月の引き落としだけが静かに続いていく。
誰かが悪いわけではない。ただ、デジタル上の契約は目に見えにくく、止め方もわかりにくい。そうした構造の中で、請求だけが残り続けることがある。
契約の存在に気づくまでの時間差
サブスクリプション契約は、契約した本人以外には見えにくい。契約時に届くメールは本人のアドレスに届き、月々の引き落としはカード明細の一行として処理される。紙の契約書が届くわけでもなく、請求書が郵送されることもない。
親が亡くなった直後、家族は葬儀や届出、金融機関の手続きに追われる。その間、サブスク契約の存在を確認する余裕はないことが多い。仮に気づいたとしても、まずは銀行口座や不動産といった「目に見える資産」の整理が優先される。
結果として、契約の存在に気づくのは、数か月後にカード明細を整理しているときだったり、届いた督促状を見たときだったりする。時間が経てば経つほど、どこから手をつければいいのかわかりにくくなる。
明細を見ても内容がわからない
カード明細に並ぶ請求元の名称は、必ずしもサービス名と一致しない。決済代行会社の名前だけが記載されていることもあれば、略称やアルファベットだけの場合もある。
「この引き落としは何のサービスなのか」を調べようとしても、本人のメールアカウントにアクセスできなければ契約時の案内は確認できない。スマートフォンにアプリが入っていれば手がかりになるが、それもパスワードがわからなければ開けない。
家族が明細を前にして、一件一件調べていく作業は想像以上に手間がかかる。調べても特定できないものが残ることもある。
解約には本人確認が求められる
サービスを解約しようとすると、多くの場合、本人確認が求められる。登録されたメールアドレスへの認証コード送信、電話番号へのSMS、あるいは本人からの連絡であることの確認。いずれも、本人が亡くなっている場合には対応が難しくなる。
相続人であることを証明する書類を求められることもある。戸籍謄本や死亡届の写し、相続関係を示す書類などを用意しなければならないケースでは、解約一件ごとに同様の手続きを繰り返すことになる。
サービスによっては、相続人からの解約手続き自体を想定していない場合もある。問い合わせ窓口に連絡しても、担当者が対応方法を把握していないことがある。
サービス提供側の対応にばらつきがある
サブスク契約を提供している事業者の対応は、一様ではない。大手のサービスであれば、相続人向けの手続きページが用意されていることもある。一方で、海外のサービスや小規模な事業者の場合、日本語での対応窓口がなかったり、そもそも連絡先がわかりにくかったりする。
あるサービスでは電話一本で解約できたのに、別のサービスでは書類の郵送が必要だった、ということも起こる。対応の違いは事前に予測できないため、一件ずつ確認していくしかない。
手続きが煩雑なものほど後回しになりやすく、結果として請求が続く期間が長くなる。
カードを止めても契約は残る
クレジットカードを解約すれば引き落としは止まる。ただし、それはサービスとの契約が解除されたことを意味しない。
カードが無効になったことで引き落としができなくなると、サービス側から督促の連絡が届くことがある。未払い分として請求が蓄積され、後になって相続人に連絡が来るケースもある。サービスによっては、未払い期間が続くとアカウントが停止され、その後の手続きがさらに複雑になることもある。
カードを止めることは一つの手段ではあるが、それだけで問題が解決するわけではない。
家族間で誰が対応するか決まらない
サブスク契約の整理は、不動産や預貯金の分割のように相続人全員で話し合うような性質のものではない。金額も小さく、手続きも細かい。そのため、「誰かがやるだろう」という前提で放置されやすい。
実家の片付けを担当している人が自然とこうした手続きも引き受けることになる場合もあるが、その人に負担が集中しやすい。他の相続人からは「そんな契約があったのか」と言われることもあり、情報の共有自体が難しい。
誰が何を把握していて、誰が対応するのか。そうした役割分担が明確にならないまま、時間だけが過ぎていくことがある。
少額だからと放置されやすい
月額数百円のサービスであれば、数か月分の請求が積み重なっても大きな金額にはならない。そのため、「後で対応すればいい」「このくらいなら放っておいても問題ない」という判断がされやすい。
ただ、少額の契約が複数あれば、合計すれば無視できない金額になることもある。また、金額の大小にかかわらず、故人名義の契約が残り続けていること自体に違和感を覚える人もいる。
「大した金額ではないから」という理由で手をつけないまま、気づけば一年以上が経っていた、ということも起こりうる。
把握できていない契約がまだあるかもしれない不安
いくつかの契約を解約した後でも、「まだ他にもあるのではないか」という不安が残ることがある。メールアカウントにアクセスできていなければ、契約の全体像は見えない。カード明細に載っていないもの、別の口座から引き落とされているもの、年払いで次の請求がまだ来ていないもの。
把握できていない契約があるかもしれないという感覚は、相続の手続きが「終わった」と感じることを難しくさせる。確認のしようがないまま、ただ時間が過ぎるのを待つしかない場面もある。
終わったはずの相続が終わらない感覚
不動産の名義変更を終え、預貯金の分割も済ませ、相続税の申告も完了した。それでも、数か月に一度、見覚えのない請求が届く。あるいは、サービスからの通知メールが故人のアドレスに届き続けている。
相続の「本筋」とは異なる場所で、細かな手続きが残り続けている。それは金額としては小さなものかもしれないが、「まだ終わっていない」という感覚を引きずらせる要因になることがある。
何をもって相続が終わったと言えるのか。その境界線は、思っていたよりも曖昧なものかもしれない。
結び
サブスク契約という形態は、契約した本人にとっては便利なものとして設計されている。毎月の支払いは自動化され、意識しなくてもサービスは継続される。
ただ、その「意識しなくても続く」という仕組みは、本人がいなくなった後にも同じように作動し続ける。止める側には、始める側よりも多くの手間がかかる。そうした非対称性の中で、請求だけが残り続けることがある。

