相続の話し合いを終えたとき、「これで決まった」という安堵感を覚える人は少なくない。長い話し合いを経て、ようやく結論に至った。もう二度とこの話をしなくて済む。そう思いたくなる気持ちがある。
しかし、一度決めたことがそのまま最終形になるとは限らない。後から新たな財産が見つかることもあれば、相続人の間で合意が崩れることもある。制度上、やり直しが認められるケースも存在する。
「一度決めれば変わらない」という前提で臨んでいると、予期しない展開に戸惑うことがある。
遺産分割協議はやり直せる場合がある
遺産分割協議が成立した後でも、相続人全員の合意があれば、やり直すことができる。法律上、これを禁じる規定はない。
たとえば、当初の分割内容に不公平があったと全員が認識した場合や、状況の変化により当初の合意が現実的でなくなった場合に、再度話し合いを行うことがある。
ただし、やり直しには全員の同意が必要であり、一人でも反対すれば成立しない。また、すでに登記や名義変更が完了している場合は、手続きが煩雑になることがある。
後から財産が見つかるケース
遺産分割協議を行った時点では把握していなかった財産が、後から見つかることがある。古い通帳、別の金融機関の口座、親が持っていた株式、不動産の共有持分。
見つかった財産をどう分けるか、改めて話し合いが必要になる。当初の協議書に「その他の財産は特定の相続人が取得する」といった条項があれば、それに従うことになる。しかし、そうした条項がなければ、再度の協議が求められる。
財産の全容が把握できていなかった場合、一度の協議では完結しない。
負債が後から判明するケース
財産だけでなく、負債も相続の対象になる。親が誰かの連帯保証人になっていた、借金があった、未払いの税金があった。こうした負債が後から判明することがある。
負債の存在を知らずに相続を承認していた場合、後から返済義務を負うことになる。相続放棄の期限は原則として三か月だが、負債の存在を知らなかった場合には、知った時点から三か月という例外もある。
負債の発覚によって、相続の状況が一変することがある。
合意したはずの内容が履行されない
遺産分割協議書を作成し、全員が署名捺印した。しかし、その内容が実行されないことがある。不動産を売却して代金を分けると決めたのに、売却が進まない。特定の相続人が代償金を支払うと約束したのに、支払われない。
協議書は契約としての効力を持つが、強制力を発揮するには裁判所への申立てが必要になる場合がある。話し合いで解決できなければ、法的手続きに進むことになる。
合意が成立しても、履行されなければ終わりにならない。
相続人の間で解釈が分かれる
協議書の文言について、相続人の間で解釈が分かれることがある。「実家の管理は長男が行う」と書かれていても、管理の範囲や費用負担について認識が異なることがある。
曖昧な表現が後から問題になるケースは少なくない。話し合いの時点では細かいことを詰めきれず、「後で決めればいい」と先送りした部分が、後になって争点になることがある。
協議が終わった後も、解釈をめぐる話し合いが続くことがある。
遺言書が後から発見される
遺産分割協議が終わった後に、遺言書が発見されることがある。親が書いたものを誰も知らなかった、別の場所に保管されていた、公正証書遺言が法務局に預けられていた。
遺言書の内容と協議の結果が異なる場合、どちらを優先するかという問題が生じる。遺言書の内容に従うか、相続人全員が合意すれば協議の結果を維持するか。
遺言書の発見によって、決まったはずの内容が揺らぐことがある。
相続登記が放置されたまま年月が経つ
遺産分割協議で不動産の取得者を決めても、相続登記を行わなければ、名義は被相続人のままである。登記を放置している間に、取得者が亡くなれば、さらに相続が発生する。
数世代にわたって登記が放置されると、相続人が数十人に増えることがある。全員の同意を得ることが難しくなり、登記を完了させることが困難になる。
一度決めたはずの内容が、登記の放置によって複雑化していく。
二次相続で問題が再燃する
一次相続で一応の決着がついても、二次相続で問題が再燃することがある。たとえば、父の相続で母がすべてを相続し、その後母が亡くなったとき、兄弟間で改めて争いになるケース。
一次相続の時点では表面化しなかった不満が、二次相続で噴き出すことがある。また、一次相続で偏った分割をしたことが、二次相続で問題視されることもある。
相続は一度で終わるとは限らない。次の相続に影響を残すことがある。
一度決めることへの過度な期待
相続の話し合いは心理的に負担が大きい。だからこそ、一度決めればもう終わりにしたいという気持ちが働く。「これで決まった」「もう話さなくていい」という安堵を求める。
しかし、その期待が強すぎると、後から変化が生じたときに対応しにくくなる。変化を受け入れること自体を拒否したくなることがある。
一度決めることへの過度な期待が、後の展開を困難にする要因になることがある。
変化の可能性を前提にすること
相続は、一度決めたら終わりという性質のものではない。後から財産が見つかることもあれば、負債が判明することもある。合意が履行されないこともあれば、解釈が分かれることもある。
変化の可能性を完全に排除することは難しい。むしろ、変化が起きる可能性を前提にしておくことで、実際に変化が生じたときの対応がしやすくなることがある。
相続の話し合いがどこで終わるかは、あらかじめ決められるものではないのかもしれない。
