親が亡くなった後、さまざまな手続きが同時に動き始める。役所への届け出、金融機関への連絡、葬儀の準備。そうした中で、オンライン契約の解約は後回しにされやすい。
紙の郵便物であれば届いた時点で気づくことができる。しかし、オンラインで完結している契約は、意識しなければ存在すら見えない。請求がクレジットカードに紐づいていれば、口座から自動的に引き落とされ続ける。
その結果、解約の必要性に気づくのは、数か月後の明細を確認したときや、カードの有効期限が切れて請求エラーの通知が届いたときになることがある。
契約の存在が把握しにくい構造
オンライン契約の多くは、契約時に届くメール一通で完結している。契約書が郵送されることはなく、書面として手元に残るものがない。
親がどのサービスを利用していたかを確認しようとしても、メールを見ることができなければ、契約の存在自体を知る手段が限られる。クレジットカードの明細に記載されていても、サービス名が略称だったり、決済代行会社の名前しか表示されなかったりすることがある。
結果として、契約の全体像を把握すること自体が難しい状況になる。
紙の記録が残らないサービス
従来の契約であれば、契約書や約款が紙で届き、ファイルに綴じられていることがあった。親の書類を整理すれば、どこと契約しているかがある程度分かった。
しかし、オンライン契約にはその紙がない。契約内容はウェブ上のマイページに保存されているが、そこにアクセスするにはログインが必要になる。
親の部屋を片付けても、オンライン契約の痕跡は出てこない。パソコンやスマートフォンの中を見なければ、手がかりすらつかめないことがある。
ログイン情報がなければ確認できない
多くのオンラインサービスは、IDとパスワードでログインして初めて契約内容を確認できる。ログイン情報が分からなければ、契約しているかどうかすら確認できない。
パスワードを記録したメモが見つかればよいが、見つからないことも多い。ブラウザに保存されていても、そのブラウザを開くためにパソコンのパスワードが必要になる。スマートフォンがロックされていれば、そこから先に進めない。
ログイン情報の壁は、確認作業の最初の段階で立ちはだかる。
解約手続きの入り口が見つからない
仮にログインできたとしても、解約手続きの方法がすぐに分かるとは限らない。サービスによっては、解約ページが分かりにくい場所に配置されていることがある。
「設定」の中にあるのか、「アカウント」の中にあるのか、「ヘルプ」から問い合わせるのか。サービスごとに異なるため、一つひとつ調べながら進める必要がある。
時間と手間がかかることが分かると、他の手続きを優先したくなる心理が生まれる。
本人確認の壁
解約手続きを進めようとすると、本人確認を求められることがある。メールアドレスへの確認コード送信、登録電話番号へのSMS認証、秘密の質問への回答。
契約者本人が亡くなっている場合、これらの認証を通過することが難しい。サービス側に連絡して、相続人であることを証明する書類を提出しなければならないケースもある。
その手続きが煩雑であればあるほど、後回しにされやすくなる。
優先順位がつけにくい理由
相続に伴う手続きには、期限があるものとないものがある。相続放棄には三か月という期限があり、相続税の申告には十か月という期限がある。
一方、オンライン契約の解約には明確な期限がない。今日やらなくても、明日やらなくても、法的な問題は生じない。
期限がないものは後回しにされやすい。他の手続きに追われているうちに、解約のことを考える余裕がなくなる。
請求が止まらないまま時間が過ぎる
解約しない限り、請求は続く。月額制のサービスであれば、毎月の引き落としが続く。年額制であれば、更新時期に一括で請求される。
気づいたときには数か月分、あるいは一年分の請求が積み重なっていることがある。金額としては大きくなくても、使っていないサービスに支払い続けていたことに気づくと、やるせなさを感じる人もいる。
請求が続くこと自体が、後回しにしていたことの結果として現れる。
誰がやるか決まらない問題
相続の手続きは、誰がどの役割を担うか決まっていないことがある。銀行や役所の手続きは相続人の誰かが窓口になるとしても、オンライン契約の解約を誰がやるかは明確でないことが多い。
デジタル関連は若い世代に任せるという暗黙の了解があっても、その人が忙しければ手がつけられない。誰も担当を引き受けないまま、時間だけが過ぎていく。
担当が決まらないことが、後回しの一因になっている。
デジタルに詳しい人への集中
オンライン契約の解約は、パソコンやスマートフォンの操作に慣れている人に集中しやすい。他の家族が手を出しにくい領域として認識されることがある。
しかし、詳しい人が一人で全てを把握しているわけではない。その人も仕事や生活を抱えており、相続の手続きだけに時間を割けるわけではない。
期待される役割と、実際に対応できる範囲との間にずれが生じることがある。
後回しが続く背景にあるもの
オンライン契約の解約が後回しになる背景には、いくつかの構造的な要因が重なっている。契約の存在が見えにくいこと、確認するためのログイン情報が分からないこと、解約手続きが煩雑なこと、期限がないこと、担当が決まらないこと。
これらが組み合わさることで、後回しが常態化する。意図的に放置しているわけではなく、手をつける余裕がないまま時間が過ぎていく。
そうした状況を責めることは難しい。ただ、請求は止まらないまま続いている。

