相続の話題が出ると沈黙する人がいる家庭

相続のケース

相続の話題が出ると沈黙する人がいる家庭

親の老いが見え始め、きょうだいの誰かが相続の話を切り出す。すると、一人が急に黙り込む。反対するわけでも、賛成するわけでもない。ただ、何も言わなくなる。

その沈黙は、場の空気を変える。話を続けていいのかどうか、周囲は迷う。


沈黙の種類

沈黙にはいくつかの種類がある。

考えを整理するための沈黙がある。まだ自分の意見がまとまっていないから、言葉にできない。もう少し時間が欲しいという意思表示でもある。

反対の意を示す沈黙がある。言葉にすると角が立つから、黙ることで態度を示す。賛成していないことは伝わるが、何に反対しているのかは伝わらない。

話題自体を拒絶する沈黙がある。この話はしたくない、この場に自分を巻き込まないでほしいという意思表示。言葉にすることすら避けたい何かがある。

同じ沈黙でも、背景にあるものは異なる。しかし、周囲からはどれも同じ「黙っている」という状態にしか見えない。


沈黙する側の視点

沈黙している本人には、黙る理由がある。

相続の話になると、過去の記憶がよみがえることがある。親との関係、きょうだいとの力関係、家庭内での自分の位置。それらが一気に意識に上がってきて、言葉が出なくなる。

何を言っても状況は変わらないという諦めがあることもある。どうせ自分の意見は通らない、言っても無駄だ、という経験の蓄積。発言することへの無力感が沈黙を選ばせる。

感情が先に動いてしまい、言葉にならないこともある。怒りなのか悲しみなのか自分でもわからない感情が湧き上がり、それを制御するために黙る。

黙っている人は、何も考えていないわけではない。むしろ、言葉にできないほど多くのことが頭の中を駆け巡っていることがある。


周囲の受け止め方

沈黙する人がいると、話を進める側は困惑する。

賛成なのか反対なのか、わからない。黙っているということは反対なのだろうかと推測するが、確認のしようがない。問いかけても「別に」「わからない」としか返ってこないこともある。

沈黙を無視して話を進めれば、後から「勝手に決めた」と言われるかもしれない。かといって、沈黙を待ち続ければ話は一向に進まない。

周囲は沈黙をどう解釈するかで悩む。「何か不満があるのだろう」「怒っているのかもしれない」「興味がないのだろうか」。推測は積み重なるが、本人に確認しても明確な答えは返ってこない。


沈黙が続くと起きること

沈黙する人の存在は、話し合いの構造に影響を与える。

発言する人だけで話が進むようになる。沈黙する人は議論から外れ、決定にも関与しなくなる。形式的には参加しているが、実質的には不在と同じ状態になる。

沈黙する人への配慮から、話題が避けられるようになることもある。「あの人がいると話しにくい」という空気ができあがり、その人がいない場で話が進むようになる。排除の意図はなくても、結果として排除に近い形になる。

沈黙する人自身も、自分が話し合いから遠ざかっていることに気づいている。しかし、そこから戻る方法がわからない。一度黙り始めると、途中から発言することは難しくなる。


沈黙の背景にある関係性

沈黙は、その人個人の性格だけでは説明できないことがある。

家族の中での力関係が影響していることがある。発言権が弱い立場に置かれてきた人は、重要な話題になると黙ることを選びやすい。言っても聞いてもらえなかった経験が、沈黙を習慣化させる。

過去の出来事が影響していることもある。以前の話し合いで傷ついた経験、意見を否定された記憶、家族の前で恥をかいた体験。それらが蓄積して、発言することへの抵抗が生まれている。

沈黙は、その場で突然始まったものではなく、長い時間をかけて形成されたパターンであることが多い。


沈黙を言葉にすることの難しさ

なぜ黙っているのか、本人に聞いても答えが返ってこないことがある。

自分でも理由がわからないことがある。何か引っかかっているが、それが何なのか言語化できない。感情と言葉の間に距離がある。

理由がわかっていても、言いたくないこともある。言葉にすると、過去の出来事を蒸し返すことになる。それは自分にとっても、相手にとっても負担が大きい。

「なぜ黙っているのか」という問いかけ自体が、詰問のように感じられることもある。説明を求められること自体が圧力になり、さらに黙り込む。


沈黙がそのままになる構造

沈黙が続くと、それが当たり前になっていく。

「あの人はそういう人だから」という認識が共有され、沈黙を問題視する人がいなくなる。沈黙は放置され、そのまま固定化する。

本人も、沈黙する自分を受け入れるようになる。「自分は発言しない役割なのだ」という自己認識が強まり、発言する機会があっても沈黙を選ぶ。

周囲も本人も、沈黙を解消しようとしなくなる。それが楽だからでもあるし、変えようとすることで別の問題が起きることを恐れるからでもある。


沈黙が意味するもの

沈黙している人は、存在していないわけではない。発言しなくても、その場にいる。話し合いの結果は、その人にも影響を及ぼす。

沈黙の中には、言葉にならなかった思いがある。同意できない何か、納得できない何か、引っかかる何か。それらは言葉になっていないだけで、消えたわけではない。

相続の話し合いは、発言した内容だけで構成されているわけではない。沈黙もまた、その場を形作る要素のひとつとして存在している。


参考情報