相続の手続きには、さまざまな書類や情報が必要になる。保険証券、銀行口座の情報、不動産の権利関係。かつてはそれらが紙の形で保管されていることが多かったが、近年はメールの受信箱にしか残っていないケースが増えている。
メールアカウントは、パスワードを知っている本人だけがアクセスできる空間にある。その本人がいなくなったとき、メールの中にある情報はそのまま閉ざされることになる。
メールが情報の起点になっている
銀行の取引通知、保険の契約確認、証券会社からの報告書。紙の郵便物が届かなくなった代わりに、メールにそれらの通知が届いている家庭は少なくない。メールの受信箱は、本人が意識しないうちに財産情報の集約点になっている。
パスワードを知っている人がいない
メールアカウントのパスワードは、本人以外に共有されていないことが多い。家族がパスワードを聞いていなかった場合、メールアカウントにログインすることができない。パスワード管理ツールを使っていた場合は、そのツール自体のパスワードが分からないという入れ子の問題が起きる。
パスワードリセットが機能しない場面
パスワードを忘れた場合の再設定手段は、多くのサービスで用意されている。しかし、その再設定先が本人の別のメールアドレスや携帯電話番号になっている場合、その手段も同じように閉ざされていることがある。再設定の仕組みが、生きている本人を前提として設計されている。
どの口座があるのか分からない
メールにアクセスできないことで、故人がどの金融機関に口座を持っていたのか、そもそも把握できないという事態が起きる。紙の通帳やキャッシュカードがあれば手がかりになるが、ネット専業の銀行や証券会社の場合、物理的な手がかりが存在しないことがある。
保険の存在に気づかない
生命保険や医療保険の契約通知がメールにしか届いていなかった場合、保険の存在自体を家族が知らないまま手続きが進むことがある。保険会社からの連絡がメール経由でしか行われていなければ、家族がその保険に気づく手段は限られている。
サービス提供者への問い合わせの壁
メールサービスの提供者に対して、故人のアカウント情報の開示を求めることは可能な場合もあるが、手続きは簡単ではない。死亡証明書、戸籍謄本、本人との関係を証明する書類など、複数の資料を求められることがある。対応の可否や条件はサービスによって異なり、開示までに時間がかかることもある。
手続きが止まっている間も期限は動いている
メールにアクセスできない状態でも、相続に関する法律上の期限は変わらず進んでいる。口座の有無が分からないからといって、申告の期限が延びるわけではない。情報がないまま期限だけが近づいてくるという状況に、家族が焦りを感じることがある。
生前に共有されていなかった理由
メールのパスワードを家族に共有しなかった理由は、悪意や秘密主義ではないことが多い。単に、共有する発想がなかった、あるいはプライバシーの感覚として当然のことだった、という場合が多い。本人にとっては日常の一部であったものが、残された側にとっては障壁になる。
技術的な問題が感情的な問題に変わる瞬間
メールにアクセスできないという問題は、最初は技術的な障壁として現れる。しかし、そこから先に進めない時間が長くなると、「なぜ教えてくれなかったのか」「もっと早く聞いておけばよかった」という感情が生まれることがある。技術的な課題が、家族の間の感情に影響を及ぼしていく。
閉ざされた受信箱の向こう側
メールアカウントの中に何があるのかは、アクセスできない側からは想像するしかない。何か見落としているかもしれないという不安は、手続きが進んだ後も残ることがある。見えないものがあるという感覚は、手続きの完了とは別の次元で続いていく。
参考情報

