デジタル資産が「財産」と認識されにくい構造

相続とデジタル

相続において、何が「財産」に含まれるか。預貯金、不動産、株式、保険金。これらは財産として認識されやすい。

一方で、デジタル資産は財産として認識されにくい傾向がある。ネット上に存在するポイント、電子マネー、暗号資産、ネット証券の残高。これらが相続の対象になるという認識が薄いまま、手続きが進むことがある。

形がないものを財産と捉えにくい

従来の財産には、物理的な形があった。通帳には数字が印刷されている。不動産には登記簿がある。株券は電子化されても、証券会社から書類が届く。

デジタル資産には、手に取れる形がない。画面上に表示される数字は、紙に印刷されることなく、サーバー上にデータとして存在している。その実体のなさが、「財産」という認識を持ちにくくさせている。

触れないもの、目に見えにくいものを、財産として意識することの難しさがある。

少額であることが多い

デジタル資産の中には、少額のものが多い。ポイント残高が数千円分、電子マネーに数万円。一つひとつは大きな金額ではない。

少額であることで、「わざわざ相続手続きをするほどのものではない」という判断がなされやすい。手続きの手間を考えると、放置した方が合理的に思える。

しかし、複数のサービスに分散している少額の資産を合計すると、まとまった金額になることもある。個別に見ると小さく見えるものが、全体として把握されないまま見過ごされる。

親世代がデジタル資産を持っているという想定がない

相続を行う子ども世代の中には、「親はデジタル資産を持っていないだろう」という想定を持つ人がいる。

親の世代はインターネットに詳しくない。スマートフォンも最近使い始めたばかり。暗号資産に投資しているとは思えない。そうした認識から、デジタル資産の存在を確認しようという発想自体が生まれない。

しかし、親がスマートフォンを使っていれば、何らかの電子マネーやポイントサービスを利用している可能性がある。年齢に関係なく、デジタルサービスは浸透している。

相続手続きの中でデジタル資産が出てこない

相続手続きを進める際、金融機関や不動産については、手続きの流れが確立されている。銀行に連絡し、残高証明を取得し、名義変更や解約を行う。不動産は登記簿を確認し、相続登記を行う。

一方で、デジタル資産については、手続きの中で自動的に把握される仕組みがない。誰かが意識的に調べなければ、存在が確認されないまま終わる。

相続税の申告においても、デジタル資産の申告漏れが起きやすい。存在を把握していなければ、申告のしようがない。

サービスごとに手続きが異なる

デジタル資産を相続しようとしても、サービスごとに手続きが異なる。

あるポイントサービスは相続を認めている。別のサービスは、利用者が死亡した時点でポイントが失効する。電子マネーの残高は払い戻しができるサービスと、できないサービスがある。

この複雑さが、デジタル資産の相続を面倒に感じさせる。一つひとつのサービスの規約を確認し、それぞれの手続きを行う手間を考えると、諦めるという選択が取られやすい。

「財産」という言葉のイメージ

「財産」という言葉には、ある程度の金額や重みを伴うイメージがある。家、土地、預金、株式。それらと並べたとき、ポイントや電子マネーは「財産」という言葉にそぐわないように感じられることがある。

「財産」ではなく「残高」や「ポイント」という言葉で呼ばれることで、相続の対象という認識から外れやすくなる。言葉の選び方が、認識に影響を与えている。

相続人の間で認識が共有されない

デジタル資産の存在を知っている相続人と、知らない相続人がいることがある。

親と同居していた子どもは、親がスマートフォンで何かを操作していたことを見ている。離れて暮らしていた子どもは、親のデジタル生活を知らない。その認識の差が、遺産分割協議の中で明らかになることがある。

「そんなものがあったのか」「なぜ言わなかったのか」。デジタル資産の存在が後から判明したとき、不信感が生まれることもある。

把握されないまま消えていく資産

デジタル資産の中には、一定期間利用がなければ失効するものがある。ポイントの有効期限、電子マネーの払い戻し期限、サービスの利用規約による消滅。

相続人が存在を把握していない間に、これらの資産は静かに消えていく。消えたことすら気づかれない。あったかもしれない資産が、確認されないまま失われる。


参考情報
金融庁:金融サービスに関する情報
国税庁:相続税に関する情報