相続の話し合いには参加しないと、最初に伝えていた。権利もいらない、手続きも関わらない。そのときは、それで了解されたように見えた。数年後、親の名義だった口座の解約に、相続人全員の届出が必要だと言われた。関わらないと言っていた自分も、書類に署名し、印鑑を押す必要が出てきた。必要が出てきたことで、関わらないと言ったつもりが、結局どこかで線を引かれたことになった。
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関わらない、の境界が曖昧になる瞬間
相続放棄はしなかった。権利は残したまま、話し合いには出ないと言っていた。出ないつもりだったが、書類の一通が実家に届き、兄弟の一人から「ここ、押して」と送られてきた。押さないと手続きが進まない。押した。押したことで、関わらないの境界が、自分が思っていたより手前だったと分かった。
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知らないうちに決まっていたこと
何がどう決まったか、細かくは聞いていなかった。聞いていないまま、ある日、実家が売却されたと知った。売却の話は、自分も相続人の一人だから、法的には関係がある。関係があるのに、話し合いには出ていなかった。出ていなかったから、売却の時期も相手も、後から聞いて初めて知った。知ったとき、もう変更できる状態ではなかった。
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後から必要になる署名と届出
関わらないと言っていた自分に、後から届出や署名の依頼が回ってくることがある。回ってくるたびに、断るか、応じるかで迷った。断れば手続きが止まる。止まれば、他の兄弟に迷惑がかかる。応じれば、関わらないと言っていたことと矛盾する。矛盾すると思いながら、何度か応じた。応じたことが、関わらないという線を、さらに曖昧にしていった。
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情報が届かないことの問題
話し合いに出ていなかったから、相続の進捗は断片的にしか分からなかった。分からないまま、必要な書類の期限が迫っていると、急に連絡が来る。急に来ることで、こちらの都合は二の次にされがちだった。都合を言いにくい立場が、関わらないと言った自分には、後からついて回った。
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後から直面する、という形
相続に関わらないと言った。言った時点では、それで済むと思っていた。後から、署名が必要になったり、届出が必要になったり、売却の結果を知らされたりした。そのたびに、関わらないの意味が、自分が思っていたより狭かったと分かった。分かったまま、どう線を引くかは、まだ決まっていない。

