相続の話を兄弟LINEで済ませようとしてこじれるケース
兄弟間にLINEグループがある家庭は少なくない。普段の連絡、親の様子の共有、ちょっとした相談。便利なツールとして日常的に使われている。
親が亡くなった後、そのLINEグループで相続の話が始まることがある。「集まるのも大変だし、LINEで決められることは決めてしまおう」。そんな流れで、財産の分け方や手続きの段取りがメッセージでやり取りされる。
しかし、LINEでの相続の話し合いは、思わぬ形でこじれることがある。便利だったはずのツールが、問題を複雑にしていく。
LINEで話し始める自然な流れ
兄弟が離れた場所に住んでいる場合、全員が集まる機会は限られている。葬儀で顔を合わせた後、次にいつ会えるかわからない。仕事や家庭の事情もある。
そうした状況で、LINEは手軽な連絡手段として機能する。「相続のこと、少し話しておきたいんだけど」と誰かがメッセージを送る。それに対して、他の兄弟が返信する。自然な流れで、相続の話し合いがLINE上で始まっていく。
最初は簡単な確認事項だけのつもりだったかもしれない。しかし、一度始まると、そのまま話が続いていくことがある。
文字だけでは伝わらないニュアンス
対面での会話には、言葉以外の情報が含まれている。表情、声のトーン、間の取り方。それらが、発言の意図やニュアンスを補っている。
LINEのメッセージは文字だけである。同じ言葉でも、どのような気持ちで書かれたのかは読み取りにくい。「それでいいと思う」という返信が、心からの同意なのか、諦めなのか、皮肉なのか。書いた本人の意図と、読んだ側の解釈がずれることがある。
特に、相続のように感情が絡みやすい話題では、このずれが誤解を生みやすい。悪意のない発言が、攻撃的に受け取られることがある。
返信のタイミングが意味を持ってしまう
LINEでは、メッセージを送った後、相手がいつ返信するかが見える。すぐに返信が来ることもあれば、数時間、あるいは数日経っても返信がないこともある。
相続の話題に対して返信が遅いと、「避けているのではないか」「反対しているのではないか」「自分の意見を言いたくないのではないか」といった推測が生まれる。実際には、単に忙しかっただけかもしれない。考える時間が必要だっただけかもしれない。
しかし、待っている側には、その理由はわからない。返信がないという事実だけが、意味を持ち始める。
既読がつくことの重さ
LINEには既読機能がある。メッセージを読んだことが相手に伝わる仕組みである。
相続に関する提案や質問を送った後、既読がついたのに返信がない状態が続くと、送った側は不安になる。「読んだのに返事をしないのはなぜか」「内容に不満があるのか」「無視されているのか」。
既読スルーという言葉があるように、読んだのに返信しないことは、意図的な態度表明として受け取られやすい。本人にその意図がなくても、そう解釈されてしまうことがある。
スクリーンショットが残るという意識
LINEのやり取りは、スクリーンショットとして保存できる。誰かが会話の一部を切り取って、他の人に見せることができる。
このことを意識すると、発言が慎重になる人がいる。「この発言が後から証拠として使われるのではないか」「文脈を無視して切り取られるのではないか」。そうした懸念が、本音を言いにくくさせる。
一方で、実際にスクリーンショットが共有されることもある。兄弟の配偶者に見せる、他の親族に相談する。グループ内でのやり取りが、グループ外に広がっていく。
発言しない人の存在感
LINEグループでは、発言する人としない人が分かれやすい。積極的に意見を述べる人がいる一方で、ほとんど発言しない人もいる。
発言しない人の意図は、他のメンバーにはわからない。賛成しているのか、反対しているのか、興味がないのか、別の考えがあるのか。沈黙は多様な解釈を許す。
発言しないことで、その人は話し合いに参加していないように見える。しかし、メッセージは読んでいる。決定事項には影響を受ける。その非対称性が、後から問題になることがある。「自分は聞いていない」「そんな話は知らなかった」という主張が出てくることがある。
話が進んでいるようで進んでいない状態
LINEでは、メッセージが流れていくと、過去の発言が埋もれていく。重要な提案や質問が、日常的な会話の中に紛れてしまうことがある。
「あの件、どうなった?」と聞くと、「え、決まったんじゃなかった?」と返ってくる。あるいは、「まだ話し合い中だと思っていた」という人がいる。誰が何に同意したのか、何が決定事項で何が検討中なのか、曖昧なまま進んでいく。
話し合いをしているつもりでも、実際には合意が形成されていない。その状態が続くと、後から「そんなつもりじゃなかった」という食い違いが表面化する。
対面で話すべきだったという後悔
LINEでの話し合いがこじれた後、「最初から集まって話せばよかった」という後悔が生まれることがある。
移動の手間、時間の調整、それぞれの都合。対面で集まることのハードルは確かに高い。しかし、そのハードルを避けた結果、もっと大きな問題が生じてしまうことがある。
一度こじれた関係を修復するのは、最初から丁寧に話し合うよりも難しい。LINEで生じた誤解や感情的なしこりが、対面で会ったときにも影響を与える。
結び
LINEは便利なツールである。離れた場所にいても、すぐに連絡が取れる。記録が残る。時間を選ばずにやり取りができる。
しかし、相続という話題には、その便利さがうまく噛み合わないことがある。文字だけでは伝わらないもの、タイミングが持つ意味、沈黙の解釈。それらが積み重なって、話し合いを複雑にしていく。
手軽に始められるからこそ、気づいたときには引き返しにくくなっていることがある。
