誰が相続の窓口になるのか決まらなかったケース
親が亡くなった後、相続に関するさまざまな連絡が届き始める。銀行から、保険会社から、役所から。これらに対応するには、誰かが窓口になる必要がある。
しかし、誰が窓口になるのか、はっきり決まらないことがある。長男だから自分がやるべきだと思う人がいる。実家の近くに住んでいるから自分だろうと思う人がいる。誰かがやってくれるだろうと待っている人がいる。
明確に決まらないまま、連絡への対応が遅れ、手続きが進まない。誰がやるのか、という問いに答えが出ないまま時間が過ぎていく。
窓口役が必要になる理由
相続の手続きは、一人でできることばかりではない。しかし、相続人全員が同時に動くことも現実的ではない。誰かが代表として窓口になり、情報を集約し、連絡を取りまとめる役割が必要になる。
銀行から届いた書類、保険会社からの問い合わせ、税理士や司法書士との連絡。これらを誰が受け取り、誰が対応するのか。決まっていなければ、連絡が宙に浮くことになる。
窓口役は、手続きを進める上での実務的な必要性から生まれる役割である。しかし、その必要性があるからといって、自動的に誰かが引き受けるわけではない。
「誰がやるか」が暗黙のままになる構造
親が亡くなった直後、家族は慌ただしい。葬儀の準備、各方面への連絡、弔問客への対応。そうした中で、「相続の窓口を誰がやるか」を明確に話し合う余裕がないことが多い。
なんとなく、長男がやるのだろう。なんとなく、実家にいる人がやるのだろう。そうした暗黙の前提が共有されているようで、されていない。それぞれが自分なりの想定を持っているが、その想定を確認し合わないまま時間が過ぎる。
明確に決まっていないことに気づくのは、何かが滞ったときである。「あれ、誰がやることになってたんだっけ」という問いが、その時点で浮上する。
長男・長女という期待の重さ
兄弟の中で、長男や長女が窓口役を期待されることがある。「長男だから」「一番上だから」という理由で、役割が暗黙に割り振られる。
しかし、長男や長女が窓口役に適しているとは限らない。遠方に住んでいて動きにくい場合もある。仕事が忙しく時間が取れない場合もある。親との関係が複雑で、関わりたくない事情がある場合もある。
「長男だからやってくれるだろう」という期待と、本人の状況が噛み合わないとき、期待だけが宙に浮く。長男自身も、期待されていることはわかっていても、引き受けられない事情を説明しにくいことがある。
近くに住んでいる人への負担集中
実家の近くに住んでいる兄弟が、窓口役を期待されることもある。物理的に動きやすい、親の家に行きやすい、地元の金融機関に行ける。そうした理由で、近くに住んでいる人に役割が集中しやすい。
しかし、近くに住んでいることと、窓口役を引き受ける意思があることは別の話である。近くに住んでいるからといって、時間に余裕があるわけではない。自分の生活や仕事を抱えながら、相続の手続きを担うことは大きな負担になる。
「近くにいるんだからできるでしょ」という周囲の認識と、本人の実感にはギャップがあることが多い。
「誰かがやるだろう」という期待
兄弟の中に、「誰かがやってくれるだろう」と待っている人がいることがある。自分から手を挙げるつもりはないが、誰かが引き受けてくれるだろう、と思っている。
全員がそう思っていると、誰も動かない。それぞれが、他の誰かが窓口役をやることを前提にしている。前提が共有されていないから、誰も最初の一歩を踏み出さない。
「誰かがやるだろう」という期待は、責任の所在を曖昧にする。全員が待ちの姿勢でいると、手続きは進まない。
窓口役を引き受けることへの躊躇
窓口役を引き受けることには、躊躇を感じる人が多い。手続きの負担が大きそう、知識がないから不安、間違えたら責められそう。そうした懸念が、手を挙げることを躊躇させる。
また、窓口役になると、他の兄弟との調整役も担うことになる。意見が食い違ったときに間に立つ、情報を共有する、催促する。そうした役割まで引き受けることになる可能性がある。
「自分がやると言ったら、最後まで自分がやることになる」。その見通しが、引き受けることへの躊躇を強める。
決まらないことで起きる問題
窓口役が決まらないと、さまざまな問題が生じる。
銀行からの連絡に誰も対応せず、手続きが遅れる。保険会社からの書類が放置される。税理士や司法書士に依頼しようにも、誰が連絡するか決まらない。それぞれが「誰かがやっているだろう」と思っているうちに、期限が近づいてくる。
問題が表面化してから、「誰がやることになってたの」という責任の押し付け合いが始まることもある。決まっていなかったことが、決めなかった誰かのせいにされる。
なし崩しに決まっていく過程
明確な話し合いがないまま、なし崩しに窓口役が決まっていくこともある。
最初にたまたま銀行に行った人が、そのまま窓口役になる。葬儀社とのやり取りを担当した人が、相続の窓口も引き継ぐ。誰かが動いたから、その人が続けてやることになる。
本人が望んでそうなったわけではないことも多い。「やってしまったから、自分がやるしかない」という感覚で続けている。明確に決めたわけではないから、不満があっても言い出しにくい。
なし崩しに決まった役割は、後から変更することが難しい。「最初からやってたじゃない」と言われると、途中で降りることへの躊躇が生まれる。
結び
相続の窓口役は、手続きを進める上で必要な存在である。しかし、誰がその役割を担うのかは、自然と決まるわけではない。
決まらないまま時間が過ぎると、手続きが滞り、問題が複雑化する。なし崩しに決まると、特定の人に負担が集中し、不満が蓄積する。
誰が窓口になるのか。この問いに早い段階で答えを出すことが、その後の進行を左右することがある。

