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相続と人間関係

相続の話をしないことが、家族に対する優しさだと考える人がいる。親がまだ元気なうちから財産の話をするのは気が引ける、親が亡くなった後に兄弟間でお金の話をするのは避けたい、そうした思いから話題を出さずにいる。

この姿勢は、家族関係を大切にしたいという気持ちから生まれていることが多い。しかし、話を避けることが本当に優しさとして機能しているかどうかは、別の問題として存在する。

話題を出さないことで保たれる平穏

相続の話を避けている間、家族の関係は表面上は穏やかに保たれることがある。誰も重い話題を持ち出さず、日常的なやりとりだけが続く。この状態を維持したいという気持ちは、自然なものである。

相続の話を切り出せば、何かが変わるかもしれない。意見の違いが明らかになるかもしれないし、隠れていた感情が表に出るかもしれない。その変化を避けたいという心理が、話題を出さないという選択につながる。

「言わなくても分かっている」という前提

話を避ける人の中には、「わざわざ言わなくても、お互いに分かっている」という前提を持っていることがある。財産の分け方について、家族の間で暗黙の了解があると信じている場合である。

しかし、この前提が共有されているかどうかは、確認しなければ分からない。自分が考えている「当然の分け方」が、他の家族にとっても当然かどうかは、話し合わない限り明らかにならない。

優しさの裏にある回避の心理

話を避けることを優しさだと捉えている場合でも、その裏には別の心理が働いていることがある。相続の話をすることへの抵抗感、対立を避けたいという願望、自分が悪者になりたくないという思いなど、複合的な感情が関わっている。

これらの感情を自覚していない場合もある。「家族のために話を避けている」と思っていても、実際には自分自身が話し合いを避けたいと感じていることがある。優しさという言葉が、自分の回避を正当化する機能を果たしていることがある。

話さないことが相手にどう映るか

話を避けている本人は優しさのつもりでも、相手がそう受け取るとは限らない。相続の話をしたいと思っている家族から見れば、「なぜ話し合わないのか」「何を考えているのか分からない」と感じることがある。

沈黙は、さまざまな解釈を生む余地がある。話を避けていることが、相手には「関心がない」「協力する気がない」「何か隠している」と映ることもある。優しさとして意図された沈黙が、不信感を生むことがある。

親の生前に話を避けた場合

親が亡くなる前に相続の話をしないことを、親への配慮と捉える人は多い。「縁起でもない話をしたくない」「親を傷つけたくない」という思いは理解できるものである。

しかし、親の意思を確認しないまま亡くなった場合、残された家族は手がかりなく話し合いを進めることになる。親がどう考えていたかを推測するしかなく、それぞれが異なる解釈を持つことがある。生前に話を避けた優しさが、死後の混乱につながることがある。

兄弟姉妹間で話を避けた場合

兄弟姉妹の間で相続の話を避けることも、関係を維持するための配慮として行われることがある。仲が良い関係を壊したくない、お金の話で揉めたくない、そうした思いから話題にしないことを選ぶ。

ただし、相続の手続きには期限があるものもある。話を避け続けることで期限が迫り、準備不足のまま決断を迫られることがある。優しさとして避けていた話が、切迫した状況で持ち出されると、かえって感情的なやりとりになることがある。

避けていた話題が表面化するとき

相続の話を避け続けても、いつかは何らかの形で話題にせざるを得ない場面が来る。銀行口座の凍結、不動産の名義変更、相続税の申告など、手続き上の必要から話し合いが始まることがある。

そのとき、長く話を避けていた家庭ほど、話し合いの進め方に困ることがある。話し合いの経験がないため、どこから始めればいいか分からない。蓄積された沈黙の期間が、最初の一歩を重くすることがある。

優しさの再定義

相続の話を避けることが優しさだと思っていた人が、その前提を問い直す場面がある。話を避けた結果、状況が複雑になったとき、「あのとき話していれば」という思いが浮かぶことがある。

優しさとは何かという問いに、一つの答えがあるわけではない。話を避けることが優しさである場合もあれば、話を切り出すことが優しさである場合もある。その判断は、状況や関係性によって異なる。

避けることと向き合うことのあいだ

相続の話を避けてきた人が、話し合いに向き合おうとするとき、これまでの沈黙をどう扱うかという問題が生じる。なぜ今まで話さなかったのか、そのことを説明するのか、それとも触れずに進めるのか。

避けてきた時間を否定する必要はないが、その時間があったことを踏まえた上で話し合いを始めることになる。優しさだと思っていた沈黙の意味が、話し合いの中で再び問われることがある。


参考情報
法務省「相続に関する基本的な情報」