相続の話し合いが進む中で、兄弟姉妹の間に情報の偏りが生まれることがある。ある人は親の財産について詳しく知っているのに、別の人はほとんど何も知らされていない。そうした差が、話し合いの前提を揺るがすことがある。
情報を持っている側に悪意があるわけではない。しかし、持っていない側には、排除されているような感覚が生まれることがある。情報の差は、信頼の差として受け取られることがある。
情報が集中する人が生まれる構造
相続において、すべての兄弟姉妹が同じ情報を持っているとは限らない。親の財産がどれくらいあるのか、どこに何があるのか、誰がどんな約束をしていたのか。これらの情報は、兄弟の間で均等に共有されていないことがある。
情報が集中するのは、特定の誰かが意図的に独占しているからではないことが多い。物理的な距離、親との関係性、日常的な接触頻度など、さまざまな要因によって、自然と情報が偏っていく。その偏りが、相続の場面で表面化する。
同居していた人に情報が偏る背景
親と同居していた兄弟は、日常的に親の生活を見ている。通帳がどこにあるか、保険に入っているかどうか、親がどんな話をしていたか。そうした情報が、意識しなくても蓄積されていく。
一方、離れて暮らしている兄弟は、親の日常を知る機会が限られる。帰省のときに話を聞くことはあっても、断片的な情報にとどまる。同居している人と同じレベルの情報を持つことは、物理的に難しい。この差は、同居していた側に悪意がなくても生じる。
手続きを担当した人が知っていること
親が亡くなった後、手続きを担当する人が決まることがある。銀行への届け出、保険の請求、不動産の名義変更など、さまざまな手続きを進める中で、その人には情報が集まっていく。
手続きを進めるためには、書類を読み、問い合わせをし、場合によっては専門家と話をする必要がある。その過程で得られる情報は、手続きを担当していない兄弟には伝わりにくい。担当者が報告しなければ、他の兄弟は知る機会を失う。
知らされていない側が感じる違和感
情報を持っていない兄弟は、話し合いの場で初めて知る事実に直面することがある。「そんな話は聞いていない」「なぜ今まで教えてくれなかったのか」という感覚が生まれる。
この違和感は、情報の内容そのものよりも、自分が知らされていなかったという事実に向けられることがある。「除外されていたのではないか」「隠されていたのではないか」という疑念が、兄弟関係に影を落とすことがある。
情報共有がされない理由
情報を持っている側が、意図的に隠しているわけではないことが多い。単に「言う機会がなかった」「聞かれなかったから言わなかった」という場合がある。また、「まだ確定していないから言わないでおこう」という判断が働くこともある。
情報を共有することには手間がかかる。何をどこまで伝えるべきか、どのタイミングで伝えるべきか。そうした判断を後回しにしているうちに、情報の差が広がっていく。共有しなかったことに理由はあっても、結果として差は残る。
聞いても答えが曖昧になる場面
情報を持っていない側が質問をしても、明確な答えが返ってこないことがある。「ちょっとまだわからない」「調べているところ」といった返答が続くと、本当に調べているのか、それとも教えたくないのかが判断しにくくなる。
質問する側は、何度も同じことを聞くのは気が引けると感じることがある。一方、答える側は、まだ整理がついていないから言えないと感じている。このすれ違いが、情報格差を固定化していく。
情報格差が不信感に変わる瞬間
情報の差が一定のラインを超えると、「なぜ自分だけ知らないのか」という疑問が、「何か隠しているのではないか」という疑念に変わることがある。疑念が生まれると、その後の情報共有も素直に受け取れなくなる。
情報を持っている側が善意で行動していたとしても、持っていない側にはそう見えないことがある。不信感は、情報の内容よりも、情報を持っている・持っていないという関係性に対して向けられる。
後から事実を知ったときの衝撃
相続の手続きがある程度進んだ後で、知らなかった事実を知ることがある。「実は親に借金があった」「実は生前に贈与があった」といった情報が、後から明らかになるケースがある。
そうした情報を後から知った側は、「なぜもっと早く言わなかったのか」という思いを抱くことがある。すでに合意した内容が覆る可能性もあり、手続きが振り出しに戻ることもある。情報共有のタイミングが、話し合いの結果に影響を与えることがある。
情報の非対称性がもたらす話し合いの歪み
情報を多く持っている人と、少ない人が同じ場で話し合いをすると、対等な議論が難しくなることがある。情報を持っている側が説明し、持っていない側が質問するという構図が固定化すると、話し合いの主導権が偏る。
また、情報を持っていない側は、自分の意見を言いにくくなることがある。「よくわからないから任せる」という態度になり、結果として発言権が弱まる。情報の差は、話し合いにおける力関係の差として現れることがある。
結び
情報の偏りは意図せず生まれるが、その偏りが話し合いの前提を揺るがすことがある。
