相続税がかからない=何もしなくていいと思っていたケース

相続のケース

相続税がかからない=何もしなくていいと思っていたケース

「うちは相続税がかかるほどの財産はないから、何もしなくていい」。そう思っている家庭は少なくない。基礎控除の範囲内であれば、相続税の申告は必要ない。だから、相続については特に何も準備しなくていい、と考える。

しかし、相続税がかからないことと、相続の手続きが不要なことは、まったく別の話である。税金がかからなくても、やるべきことはたくさんある。そのことに気づくのが、親が亡くなった後になることがある。

「何もしなくていい」と思っていた分、何をすればいいのかわからない。そうした状況が生まれやすい。


相続税と相続手続きの混同

相続に関する話題で、まず出てくるのが相続税のことである。「相続税対策」「相続税の基礎控除」「相続税がかかるのはいくらから」。こうした情報に触れる機会は多い。

その結果、相続=相続税という認識が形成されやすい。相続税がかからなければ、相続について考える必要はない、と思ってしまう。

しかし、相続税は相続に関連する手続きの一部に過ぎない。税金の問題と、財産の承継手続きの問題は、別々に存在している。この区別がついていないと、「税金がかからないから大丈夫」という誤解が生まれる。


基礎控除の範囲内でも発生する手続き

相続税には基礎控除がある。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えなければ、相続税はかからず、申告も原則として不要である。

多くの家庭は、この基礎控除の範囲内に収まる。実際に相続税を納めるのは、相続全体の数パーセントとされている。「うちは関係ない」と思うのは、統計的には正しいかもしれない。

しかし、相続税がかからなくても、銀行口座の解約、不動産の名義変更、保険金の請求、車の名義変更など、さまざまな手続きは発生する。これらは財産額に関係なく必要になる。


銀行口座の凍結は税金と関係なく起きる

親が亡くなったことを銀行が知ると、口座は凍結される。これは相続税がかかるかどうかとは無関係に起きることである。

凍結された口座から預金を引き出すには、相続手続きが必要になる。戸籍謄本を集め、相続人を確定し、遺産分割協議書を作成し、銀行に提出する。この手続きは、預金が100万円でも1,000万円でも同じように必要である。

「税金がかからないから大丈夫」と思っていた人が、銀行口座の凍結で初めて相続手続きの存在を知る、ということがある。


不動産の名義変更は必須になった

2024年から、相続による不動産の名義変更(相続登記)が義務化された。相続を知った日から3年以内に登記しなければ、過料の対象になる可能性がある。

これも相続税とは関係なく適用される。田舎の実家、価値がほとんどない土地、古い建物。相続税がかかるような価値がなくても、登記は必要である。

「うちの実家は大した価値がないから」と放置していると、法的な問題に発展する可能性がある。相続税がかからないことは、登記義務を免除する理由にはならない。


遺産分割協議は財産額に関係なく必要

相続人が複数いる場合、誰が何を受け継ぐかを決める遺産分割協議が必要になる。遺言書がなければ、相続人全員で話し合って決める。

この協議は、財産が多くても少なくても必要である。むしろ、財産が少ない場合の方が、分け方で揉めることもある。「少ないからこそ、公平に分けたい」という気持ちが強くなることがある。

「税金がかからないから揉めないだろう」という予測は、必ずしも当たらない。財産の多寡と、話し合いの難しさは、比例しないことがある。


「何もしなくていい」が招く放置状態

「相続税がかからないから何もしなくていい」と思っていると、実際に何もしないまま時間が過ぎることがある。銀行口座はそのまま、不動産の名義もそのまま、保険金の請求もしていない。

放置している間にも、さまざまなことが起きる。口座が凍結されたままで生活費が引き出せない。固定資産税の通知が亡くなった親の名前で届く。実家の維持費を誰が払うのか決まらない。

「何もしなくていい」という認識が、放置状態を正当化してしまう。放置している間に問題が複雑化し、後から対応するのが難しくなることがある。


情報を集め始めるタイミングの遅れ

「何もしなくていい」と思っていると、相続に関する情報を積極的に集めようとしない。調べる必要がないと思っているからである。

実際に親が亡くなり、何かをしなければならない状況に直面して、初めて情報を集め始める。しかし、その時点では時間的な余裕がない。葬儀の直後、悲しみの中で、慣れない手続きを調べながら進めなければならない。

事前に情報があれば避けられたミスや、もっと早く始めていれば楽だった手続きがある。情報収集のタイミングが遅れることで、負担が増すことがある。


税金がかからないことの意味

相続税がかからないということは、税務署に対する手続きが軽減されるということである。申告書を作成する必要がない、税金を納める必要がない。それは確かに負担の軽減である。

しかし、それ以外の手続きは変わらない。銀行、法務局、保険会社、年金事務所。これらに対する手続きは、相続税がかかるかどうかとは無関係に発生する。

「税金がかからないから楽」というのは、一部については正しい。しかし、「何もしなくていい」というのは、明らかに誤りである。


結び

相続税がかからないことと、相続の手続きが不要なことは、別の話である。この区別がつかないまま「何もしなくていい」と思っていると、後から困ることがある。

税金がかからない家庭は多い。しかし、相続手続きが不要な家庭は、ほとんどない。財産がある限り、何らかの手続きは発生する。

「税金は関係ない」と思っている人ほど、相続手続きの全体像を把握していないことがある。


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