相続に関わらない選択が静かに広がる理由
三人兄弟のうち、長男だけが相続の手続きや話し合いに顔を出していた。次男は「お前に任せる」と言ったきり、連絡が遅くなり、やがて話し合いの日程調整にも返事が来なくなった。妹は、最初の一回だけオンラインで参加し、そのあと「私、もういい」とだけ送って、以降は出てこなかった。関わらないと言い出した人が二人目、三人目と増えていったわけではない。ただ、誰かが関わらないと決めると、その分だけ残った人が担うことが増え、やがて残った人も「自分だけがやっている」と感じるようになった。
—
最初の一人が「任せる」と言ったあと
長男が窓口になることは、明言されたわけではなかった。葬儀が終わり、誰かが「今後のこと、どうする」とLINEで書いた。そのとき、真っ先に「お前がいてくれるから」と返したのが次男だった。その一言で、長男が窓口であることが、決まったわけでもないのに決まった。次男は、それ以降、書類の話や日程の話には反応しなくなった。
—
二人目が「もういい」と言ったあと
妹は、一度だけ話し合いに参加した。その場では、特に反対もせず、黙って聞いていた。数日後、「私、もういい。お兄ちゃんたちで決めて」とLINEに書いた。書いたあと、相続のやりとりが続くグループでは、妹の既読はつくが返事は来なくなった。来なくなったことで、参加者は長男と、たまに意見を書く三男だけになっていった。
—
残った人が「自分だけ」と感じる瞬間
書類を揃え、専門家とやりとりし、兄弟に確認を求めるのは、ほとんど長男一人になった。一人でやっているうちに、長男から「俺ばかりじゃないか」という言葉が、一度だけグループに送られた。誰も「そうだね」とも「手伝う」とも書かず、既読のまま次の話題に移った。その既読のまま移ったことが、手伝わない選択がさらに固定された瞬間だった。
—
関わらない選択が広がる、というより
関わらないと言い出した人が、誰かを説得したわけではない。ただ、誰かが関わらないと決めると、残った人の負担が増える。負担が増えたまま、誰も「自分がやる」とは言い出さない。言い出さないうちに、結局いつも同じ人が動く。動く人が固定されると、動かない人にとっては、もう関わる理由がなくなる。そうして、関わらない選択が、勧められたわけでもないのに、静かに広がっていった。
—
広がったあとに残った形
今、相続の話し合いは、長男と専門家のやりとりが中心で、兄弟は「了解」と返すか、返さないかになっている。関わらない選択が広がった理由を、誰も言葉にしていない。言葉にしないまま、その形だけが残っている。

