相続に関わらないという選択をする人がいる。積極的に話し合いに参加しない、財産の分配に口を出さない、手続きを他の相続人に任せる。そうした態度を取る人に対して、周囲は困惑することがある。
「なぜ関わらないのか」「無責任ではないか」「何か隠している意図があるのではないか」。関わらないという選択は、さまざまな解釈を呼び起こす。本人にとっては明確な理由があっても、それが周囲に伝わるとは限らない。
相続という場面では、関わることが前提とされやすい。その前提の中で、関わらないという選択は異質なものとして映る。
関わることが当然とされる前提
相続は、相続人全員に関係する出来事である。法的には、相続人には権利と義務がある。財産を受け取る権利、債務を引き継ぐ可能性、遺産分割協議に参加する立場。
この構造の中で、「相続人は相続に関わるもの」という前提が自然と形成される。話し合いに参加する、意見を述べる、書類に署名する。そうした行動が期待される。
関わらないという選択は、この前提から外れている。外れていることが、周囲の困惑や疑念を生む原因になる。
関わらない理由は多様である
相続に関わらない選択をする理由は、人によって異なる。
遠方に住んでいて物理的に参加が難しい場合がある。仕事や家庭の事情で時間が取れない場合がある。親との関係が疎遠だった場合、相続に関わること自体に違和感を覚えることもある。過去の家族関係のトラブルが影響していることもある。
あるいは、財産に興味がないという場合もある。相続で得られるものよりも、関わることで生じる負担の方が大きいと判断する人もいる。他の相続人に任せた方がうまくいくと考える人もいる。
これらの理由は、本人にとっては筋の通ったものである。しかし、外からはその理由が見えにくい。
「無責任」という評価が生まれやすい構造
関わらないという態度に対して、「無責任」という評価が下されることがある。
相続の手続きには、さまざまな作業が伴う。書類の収集、金融機関への連絡、不動産の調査、相続人間の調整。これらの作業を誰かが担わなければならない。関わらない人がいると、その分の負担が他の相続人に集中する。
負担を担っている側からすれば、関わらない人は「自分だけ楽をしている」ように見える。「同じ相続人なのに、なぜ自分だけが動かなければならないのか」。そうした不満が、「無責任」という言葉になって表れる。
距離を置くことが裏切りに見える瞬間
相続は、家族の出来事である。親が亡くなり、残された家族で財産を分ける。その過程に参加しないことは、家族の一員としての役割を放棄しているように見えることがある。
特に、他の相続人が感情的に大変な時期に距離を置くと、「見捨てられた」という感覚を与えることがある。親を亡くした悲しみ、手続きの煩雑さ、家族間の調整のストレス。そうしたものを共有しない人は、家族の輪から外れているように映る。
関わらない本人にとっては、自分なりの理由がある。しかし、その理由が共有されていなければ、裏切りとして受け取られる可能性がある。
説明しても伝わりにくい事情
関わらない理由を説明しようとしても、うまく伝わらないことがある。
「忙しいから」と言えば、「自分だって忙しい」と返される。「親との関係が複雑だったから」と言えば、「それでも親は親だ」と言われる。「財産に興味がないから」と言えば、「本当にそうなのか」と疑われる。
どのような理由を述べても、それが正当な理由として受け入れられるかどうかは、聞く側の価値観による。関わることが当然だと思っている人には、関わらない理由は言い訳に聞こえることがある。
説明することで関係がさらに悪化することを恐れて、理由を述べないまま距離を置く人もいる。
関わらないことで生じる情報の断絶
相続に関わらないでいると、情報から切り離されていく。話し合いの内容、手続きの進捗、他の相続人の意見。それらが共有されなくなる。
情報がないまま時間が過ぎると、後から「聞いていなかった」「知らなかった」という状況が生まれる。しかし、関わっていなかった以上、情報を得られなかったのは自然な結果でもある。
この断絶は、相続が終わった後も影響を残すことがある。何がどう決まったのか把握していないまま、結果だけを受け入れることになる。
沈黙が意味を持ってしまう場面
関わらないという態度は、多くの場合、沈黙として表れる。連絡をしない、返事をしない、話し合いに出席しない。
沈黙は、さまざまな解釈を許す。賛成しているのか、反対しているのか、興味がないのか、怒っているのか。沈黙からは読み取れない。
その曖昧さが、他の相続人の不安や苛立ちを生む。「何を考えているのかわからない」「態度をはっきりさせてほしい」。沈黙を続けることが、それ自体でメッセージとして受け取られることがある。
理解されないまま進む相続
関わらない人の意図が理解されないまま、相続は進んでいく。他の相続人が話し合い、決定を下し、手続きを完了させる。関わらなかった人は、その結果を受け入れる立場になる。
後から「そんなつもりではなかった」と言っても、すでに決まったことを覆すのは難しい。関わらなかったことの結果を、引き受けるしかない。
理解されなかったことへの残念さ、あるいは理解してもらおうとしなかったことへの後悔。そうした感情が、相続が終わった後も残ることがある。
結び
相続に関わらないという選択は、本人にとっては理由のある判断であることが多い。しかし、その理由は周囲に伝わりにくく、誤解や批判を招きやすい。
関わることが前提とされる場面で、関わらないという選択は異質なものとして扱われる。その異質さが、理解の壁を生んでいる。
関わらない人の事情を想像することは難しい。想像しようとしても、自分の価値観が邪魔をすることがある。

