親が何も言っていなかったから問題ないと思ったケース

相続と人間関係

親が生前に相続について何も言わなかった場合、子どもはそれをどう受け取るだろうか。「何も言わなかったということは、問題がないのだろう」と解釈する人がいる。特別な指示がなければ、法律通りに分ければいいと考える。

この解釈は、親の沈黙に意味を見出そうとする自然な反応でもある。しかし、親が何も言わなかった理由はさまざまであり、「問題がない」とは限らない。

沈黙にはさまざまな理由がある

親が相続について話さなかった理由は、一つではない。話すタイミングを見計らっていたが、その前に亡くなった場合もある。話そうとしたが、子どもが話題を避けた場合もある。何をどう伝えればいいか分からなかった場合もある。

また、親自身が相続について深く考えていなかった可能性もある。自分の財産がどれくらいあるか把握していなかったり、分け方について特に希望がなかったりすることもある。沈黙は、意図的な判断の結果とは限らない。

「問題ない」という解釈が生まれる背景

親が何も言わなかったことを「問題ない」と解釈する背景には、いくつかの心理が働いていることがある。一つは、問題があれば親が何か言うはずだという期待である。親が家族のことを考えていたなら、必要な情報は伝えてくれるはずだと考える。

もう一つは、問題がないと思いたいという願望である。相続で揉めたくない、面倒なことを避けたいという気持ちが、「何も言わなかった=問題ない」という解釈を支えることがある。

法定相続という暗黙の前提

親が何も言っていない場合、法定相続分で分ければいいと考える人がいる。法律で決まっている割合に従えば、揉めることはないという前提である。

しかし、法定相続分はあくまで目安であり、実際の分割はさまざまな要素を考慮して行われる。不動産をどうするか、預貯金をどう分けるか、生前の贈与や介護の負担をどう考慮するか、そうした問題は法定相続分だけでは解決しない。

兄弟姉妹間の前提の違い

親が何も言っていなかった場合、子どもたちはそれぞれ独自の解釈を持つことがある。ある人は「均等に分ければいい」と考え、別の人は「実家を継いだ人が多くもらうべきだ」と考えるかもしれない。

これらの解釈は、親が何か言っていれば調整されていた可能性がある。しかし、沈黙のまま亡くなった場合、それぞれの解釈が衝突する余地が生まれる。「問題ない」と思っていた人が、他の家族との認識の違いに直面することがある。

暗黙の了解が共有されていない場合

「言わなくても分かっている」という感覚を持つ家庭もある。長男が実家を継ぐ、同居していた子どもが多くもらう、そうした暗黙の了解があると信じている場合である。

しかし、その了解が全員に共有されているかどうかは、確認しなければ分からない。ある人にとっての「当然」が、別の人にとっては「聞いていない」ということがある。親の沈黙が、暗黙の了解の存在を保証するわけではない。

手続きを始めてから気づく問題

相続の手続きを始めてから、思わぬ問題が見つかることがある。知らなかった借金、把握していなかった不動産、名義が複雑になっている財産など、親が何も言っていなかった背景には、整理されていない事情があることがある。

「問題ない」と思って手続きを始めた人が、こうした問題に直面すると、戸惑いを覚えることがある。親が何も言わなかったのは、問題がなかったからではなく、問題を把握していなかったり、どう伝えればいいか分からなかったりしたからかもしれない。

親の沈黙を責めることの難しさ

問題が見つかったとき、「なぜ言ってくれなかったのか」という思いが浮かぶことがある。しかし、親はすでに亡くなっており、その理由を聞くことはできない。

親の沈黙を責めることは、感情的には理解できる反応である。しかし、それによって問題が解決するわけではない。残された家族は、親の沈黙の意味を推測しながら、自分たちで話し合いを進めることになる。

沈黙の解釈をめぐる対立

親が何も言っていなかったことの解釈が、家族間で異なる場合がある。ある人は「何も言わなかったということは、任せるということだ」と解釈し、別の人は「本当は言いたいことがあったはずだ」と解釈する。

これらの解釈はどちらも推測であり、正解を確かめる方法はない。親の沈黙の意味をめぐる対立が、相続の話し合いを複雑にすることがある。

「問題ない」の前提が崩れるとき

親が何も言っていなかったから問題ないと思っていた人が、話し合いを進める中でその前提が崩れることがある。他の家族との意見の違い、予想していなかった財産の状況、手続きの複雑さなど、さまざまな要因が「問題ない」という認識を揺るがす。

そのとき、「親が何か言ってくれていれば」という思いが浮かぶことがある。しかし、その思いを抱えながらも、現実の問題に対処していくことになる。親の沈黙が何を意味していたのか、その答えは見つからないまま残ることがある。


参考情報
法務省「相続に関する基本的な情報」