親が亡くなった直後に、銀行口座からお金を下ろしてしまったケース

相続と人間関係

親が亡くなった直後に、銀行口座からお金を下ろしてしまったケース

親が亡くなった直後、葬儀の費用が必要になる。病院への支払いもある。すぐに現金が必要な場面が続く中で、親の銀行口座からお金を下ろすことがある。

キャッシュカードと暗証番号を知っていれば、ATMで引き出すことは物理的に可能である。銀行が死亡の事実を把握するまでは、口座は通常通り動く。その間に、必要な費用を確保しようと考えることは、珍しいことではない。

ただ、その行為が後の相続手続きにどのような影響を及ぼすかは、その時点ではあまり意識されていないことが多い。


口座凍結前に引き出せる状態

銀行口座は、名義人の死亡が銀行に届け出られた時点で凍結される。届け出がなければ、口座はそのまま稼働し続ける。

死亡届を役所に出しても、その情報が自動的に銀行に伝わるわけではない。遺族が銀行に連絡しない限り、口座が凍結されることはない。そのため、親が亡くなってから数日、あるいは数週間の間、口座からお金を引き出すことは物理的には可能な状態が続く。

この期間に、葬儀費用や入院費の支払いのために現金を引き出すケースがある。


葬儀費用という名目

親が亡くなった直後に口座からお金を下ろす理由として、最も多く挙げられるのが葬儀費用である。

葬儀には数十万円から百万円以上の費用がかかることがある。その費用をどこから捻出するかは、亡くなった直後に直面する現実的な問題である。自分の貯蓄から立て替える余裕がない場合、親の口座から引き出すことを考えるのは自然な流れともいえる。

ただ、その行為が「葬儀費用のため」という名目であったとしても、相続の観点からは別の意味を持つことがある。


引き出した事実は記録に残る

銀行口座からの引き出しは、すべて記録として残る。ATMで引き出した場合は日時と金額が通帳や取引明細に記載される。

相続手続きの過程で、故人の預貯金残高を確認する際、この引き出し履歴が明らかになることがある。他の相続人から「なぜこの時期にお金が引き出されているのか」と問われることがある。

引き出した本人にとっては葬儀費用のためという認識であっても、他の相続人にとっては「知らないところで財産が動いていた」という事実として映ることがある。


他の相続人との認識のずれ

引き出しを行った人と、行っていない人の間で、認識のずれが生じることがある。

引き出した側は「必要な費用を払っただけ」と考えている。しかし、引き出しの事実を知らなかった側は「なぜ事前に相談がなかったのか」「本当に全額が葬儀費用に使われたのか」と疑問を持つことがある。

この疑問が、相続の話し合いの中で表面化することがある。葬儀費用として使った金額を証明するために、領収書を求められることもある。


使途の説明を求められる場面

引き出したお金の使途について、他の相続人から説明を求められることがある。

葬儀費用や入院費として使った場合は、葬儀社や病院からの領収書があれば説明がつく。しかし、細かい出費のすべてを領収書で証明できるわけではない。また、そもそも領収書を保管していないこともある。

「何に使ったのか」を後から説明しようとしても、記憶が曖昧だったり、証拠が残っていなかったりすることがある。説明できない部分が残ると、そこに疑念が生じやすい。


相続財産としてどう扱われるか

親の口座から引き出したお金は、法的には相続財産の一部である。相続開始時点での財産を基準に遺産分割が行われるため、引き出した金額も計算に含まれることがある。

引き出した人が他の相続人に対して、その金額を返還する必要があるかどうかは、遺産分割の話し合いの中で決まることが多い。葬儀費用として認められる範囲であれば、相続財産から控除されることもある。

ただ、何が認められて何が認められないかは、相続人間の合意に依存する部分が大きい。


相続放棄との関係

親の口座からお金を引き出した場合、相続放棄ができなくなる可能性がある。

相続放棄は、相続財産に手をつけていないことが前提となる。口座からお金を引き出す行為は「相続財産の処分」とみなされる場合があり、その場合は相続を承認したとみなされることがある。

後から親の負債が判明し、相続放棄をしたいと思っても、すでに口座からお金を引き出していたためにできなくなる、ということが起こりうる。


専門家に相談しなかった理由

親が亡くなった直後は、専門家に相談する余裕がないことが多い。葬儀の手配、親族への連絡、役所への届出。やるべきことが次々と押し寄せる中で、銀行口座の扱いについて専門家に確認する時間を取ることは難しい。

また、「銀行口座からお金を下ろすこと」自体が問題になりうるという認識がないこともある。自分の親の口座なのだから、家族が使っても問題ないだろう、という感覚で行動してしまうことがある。

相談すべきだったと気づくのは、後になってからのことが多い。


結び

親が亡くなった直後に銀行口座からお金を下ろすという行為は、その時点では「必要なこと」として認識されていることが多い。しかし、その行為が持つ意味は、相続の文脈の中では異なる形で現れてくる。

記録は残り、説明を求められ、相続人間の認識のずれを生むことがある。行為そのものの是非ではなく、構造としてそうした展開が起きやすいということが、ここにはある。


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